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2008年 02月 25日

「豪傑」

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                                            中野重治



            むかし豪傑というものがいた
            かれは書物をよみ
            うそをつかず
            みなりを気にせず
            わざをみがくために飯を食わなかった
            うしろ指をさされるとはらを切った
            はずかしい心が生じるとはらを切った
            かいしゃくは友だちにたのんだ
            かれは銭をためるかわりにためなかった
            つらいというかわりに敵を殺した
            恩を感じるとむねのなかにたたんでおいて
            あとでその人のために敵を殺した
            いくらでも殺した
            それからおのれも死んだ
            生きのびたものはみなしらがになった
            しらがはまっ白であった
            しわが深くまゆ毛がながく
            そして声がまた遠くまできこえた
            かれは心をきたえるためにじぶんの心臓をふいごにした
            重いひきうすをしずかにまわし
            そしてやがて死んだ
            そして人は 死んだ豪傑を 天の星からみわけることができなかった
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by chilin-h | 2008-02-25 23:22 | 中野重治


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